こんにちは、水城真以です。
今日は、以前アメブロでも紹介した歴史小説を改めて紹介していきたいと思います。

「感動した」「涙が止まらなかった」
そんな単純な言葉じゃ表せない。
心の奥底にあったものを無理やり引き剥がされた挙句、その傷口を抉られた。
そんな言葉が似合う作品です。
本日ご紹介するのは、武内涼先生の作品「駒姫 ――三条河原異聞――」です。
駒姫ー三条河原異聞ー(新潮文庫) 【電子書籍】[ 武内涼 ]
《あらすじ(文庫本裏より》
山形十九万石を治める最上義光の愛娘で東国一の美少女と称される駒姫は、弱冠十五歳にして関白秀次のもとへ嫁ぐこととなった。が、秀次は太閤秀吉に謀反を疑われて自死。遺された妻子には非情極まる「三十九人全員斬殺」が宣告された。危機迫る中でも己を律し義を失わない駒姫と、幼き姫に寄り添う侍女おこちゃ。最上の男衆は狂気の天下人から愛する者を奪還できるか。手に汗握る歴史小説!
最初にこの本を手に取ったきっかけは、山形に住んで歴史に嵌まったばかりの頃のことでした。
大学の卒業制作でぼんやりと「駒姫について書きたいな」と思っていたんですが、軽くインターネット検索をしたところ、「悲劇の美少女」ということばかりで、あまり多くの情報は出てきませんでした。
そんな中、たまたま書店でこの本を手に取ったのです。
とはいえなかなか読む機会がないまま積読になっていたのですが、ちょうどコロナ禍で外出自粛していたため、「せっかくだから読んでみようかな」と思い、読み始めました。
舞台となるのは、「本能寺の変」に次ぐくらい有名な、秀次事件の直後。
謀反人とされた秀次は自死。そして残された妻子も処刑されることになってしまいます。
その中には秀次とはまだ顔も合わせておらず、実質側室にもなっていない、駒姫と、その侍女である”おこちゃ”の姿もありました。
この作品では、秀次が無実という前提で話が進んでいきます。そしてそれだけに、その妻妾や侍女達の惨たらしい状況が引き立っていくのです。
以下ネタバレ注意
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
こんなに登場人物に対して怒りを覚えたり、憎んだりした物語に出会ったのは初めてでした。
なぜなら、処刑されることになった駒姫をはじめとする妻妾は、何一つ罪はありません。それなのになぜ彼女達が殺されねばならないの?? と。
元々豊臣秀吉なる人物があまり好きではなかったのですが、ますます憎しみを覚えました。
結局秀吉は、年老いて生まれた我が子・お拾(後の秀頼)に「豊臣」を与えたくて、美しい側室・淀君を寵愛し過ぎたが故に狂ってしまった……と。
作中では「年老いた猿」「萎びた老人」「悪臭漂う口臭」などと、散々な言われよう。そして妙に事細かに容姿の描写がされた分だけ却って秀吉のビジュアルが想像しやすく、禍々しさと不潔さ、それらが交じり合った嫌悪感を抱かされました。
話は変わりますが、この物語には「色」があります。
理由は、駒姫の侍女でありもう一人のヒロインでもある おこちゃ は御物師(公家や武家に仕える裁縫師)だからです。
特に着物の描写は鮮烈で、おこちゃ は度々「この着物は誰に似合うか」「この人にはどんなものが」と考えるので、登場人物たちの容姿についても触れられています。
そして人物への解釈や設定についてもすごく共感できるし、作者様自身が駒姫や彼女に纏わる人への尊敬の念があるのだな……と察知することができました。
よく、秀次は「秀吉の被害者」として描かれますが、実はもやもやしてました。
「いや、あんたが呼ばなかったら駒姫死なずに済んだのに!!!」
と。
そしたら、ちゃんと駒姫自身が言ってくれたのです。
「何故、自分は斬られなければならない、わたしは悪いことをしただろうか、自分を死に追いやらんとしている者どもが憎い、世の中の理不尽が憎い、自分を山形から強引に引き出した秀次、不憫ではあるが憎くもある、こういう感情だ」(本文より)
実際、最上義光は駒姫以外の娘達は身内や臣下に嫁がせているのです。
確かに政治的思惑が一切なかったのか? と言われれば、嘘になると思います。
彼もまた、戦国乱世を生きて来た武将ですから、婚姻という政策で戦を収めたり、御家を繁栄させて来たことでしょう。しかし、愛娘たちの幸せを祈る一人の父親だったというのも、また事実だったのだと思います。
作中では、度々怒りをあらわにします。
義光が「自分の謀反が事実だとしても、娘の命だけは」と秀吉の使者に頼み込むシーン。
使者は「謀反人の子、謀反人の妻を一人だけ助けるわけにはいかない。駒姫が秀次の妻になっていない証拠はない。不公平は作れない」と平然と言い放ちます。
しかし、秀吉は秀次の正室である若政所という人とその侍女だけは助命しているのです。
若政所は信長乳兄弟・池田恒興の次女と言われています。恒興に恩義がある秀吉は彼女を救うよう命じるのです。
しかし、一度も秀次と会ったことがなかった駒姫に対し、若政所は初期からの妻でした。作中で語られる、義光の「若政所は助けたくせに」という呪いの台詞にも頷けるものです。
駒姫もまた、清廉潔白な悲劇の美女として描かれます。
実際、彼女の最期は堂々たるものだったと記されています。
しかし、ここできちんと秀次に対して「不憫ではあるが憎くもある」と、悲しみではなく怒りの感情を描いてくれたが故に彼女もまた一人の人間だったのだ……と思い出させてくれるのです。
第四章に入ってから、ほとんど泣きっぱなしでした。
秀次のもう一人の正室・一の台や側室・お竹。
皆自分の運命を嘆きつつも秀次への愛情や尊敬の念を抱きながらも運命を受け入れていました。
特に、一の台の秀次への想いを言いながら斬られる(しかもそれを聞いたのは彼女が一番聞いてほしかった群衆ではなく、妻妾達だけだった)シーンは、圧巻でした。公家の血と武家の血を引く彼女だからこそ、遂げられたシーンだったのだと思います。
ところで、おこちゃ には鮭延主殿助という幼馴染の許婚がいました。作中では主殿助が駒姫と おこちゃ の助命嘆願のために走り回ります。
そして駒姫は、最愛の人を残して行く おこちゃ を道連れにしてしまうことを心から詫びます。
よく、主従=男同士、とされることが多いのですが、この女同士の主従がとても胸打たれます。血の臭いに混じった花が匂い立つのは、この二人の瑞々しい若さが要因だと思います。
特に、おこちゃ の主殿助への想いを綴った遺書、駒姫が父母に託した願い、そして主殿助の おこちゃ への愛情と義光・駒姫親子に対する忠義は、涙なしには見られません。こんなに泣いたのは久しぶりでした。
ぜひ、読んでいただきたいです。ただし、石田三成ら豊臣家好きな方にはお勧めできません。三成や前田玄以、増田長盛などと言った豊臣家臣は厭な奴です。ていうか憎くて憎くてはらわたが煮えくり返ります。
駒姫について知りたいと思う方、秀次事件について知りたい方は、ぜひご購入していただきたい一冊となっております。
駒姫ー三条河原異聞ー(新潮文庫) 【電子書籍】[ 武内涼 ]

コメント